ベン・メリア
(Beng Mealea)

世界遺産

       カンボジア王国シェムリアップ州         


▲ ベン・メリアはアンコール・ワットの建造に先んじて建てられ
たもので伽藍の配置などは類似していると言われる。発見当時の
荒廃した風情を堪能できるとあって旅行者の人気スポットでもある。
(写真・廃墟の観を色濃く残す遺跡内の北経蔵)

密林の中に苔むす遺跡

 アンコール・ワットのあるシェムリアップ市街から東へ約35km(直線)のところにこのベン・メリア遺跡はある。まだ、部分的な調査にとどまっており、いまだに密林のなかに荒廃したままの姿で残っている仏教寺院遺跡である。ポルポト時代に埋められた地雷の撤去も近年になって進んだために見学者が入れるようになったが、コース以外の散策はまだ危険であると言われている。

 ベン・メリアの伽藍の配置と構成はアンコール・ワットに類似するもので、その縮小版とも言われている。ただ、この遺跡に関する碑文が発見されてないために具体的なことは解明されておらず、謎の多い遺跡とされている。

 建造の時期はアンコール・ワットに先立つ20年ほど前とされ、11世紀末から12世紀初めとされている。この時代の王はスールヤヴァルマン2世(アンコール朝18番目の王/1113-50)であり、その前の王たちの時代から建造が進められたものとみられている。

 地理的にはアンコールの都城から東に延びる王道(アンコール時代に設けられた幹線道路)の中継点にあり、灌漑施設も建設されるなどして都市としての機能も有していたとされている。

 遺跡そのものの修復はほとんど手付かずの状態にあり、900年の歳月経て荒廃した発見当時のままにあるようだ。遺跡内には崩れた石材が散乱し、樹木に覆われ、建造物の隙間には大樹の根が入り込んで今もなお時間をかけて破壊を続けている。

 他の遺跡のように自由な散策はここではできない。危険な箇所には木製の歩行路や階段が設けられ、訪問者は所定のコースで遺跡内を見て回ることになる。それでも密林の中に眠り続けてきた遺跡のかもし出す幽玄な世界の雰囲気に訪問者は別世界にたどり着いたような気分になる。

 しかし、歴史は別世界のことではない。確実に現在へとつながっている事実なのである。かつて栄えたアンコール王朝とその時代に生きた人々の熱気は内戦から復興しつつあるカンボジアの人々のなかに確実に受け継がれているはずだ。私はそんな事を思いながらこの遺跡を後にした。


▲ 正面入り口である南塔門。崩壊した石材が散乱しているためここからは入れない。

 ▲ 遺跡をめぐる環濠。幅45m、周囲4.2kmとなっている。

▲ 正面入り口である南参道。シェムリアップ市街から離れた郊外にあるために訪れる観光客も少なく、参道を牛がのんびりと歩いていた。

▲ アンコール遺跡には付き物の五つ頭のナーガ。ベン・メリアのこのナーガは近年まで数百年の間地面に伏していたおかげで往時の姿を私たちに見せてくれている。

▲ 遺跡への入り口である南塔門が崩壊しているため、回廊の崩れた部分に設けられた通路から内側へ入る。

▲ 第三回廊(一番外側)と第二回廊の間にある建物。

▲ 同じく東側の建物。

▲ 訪問者用の散策路は崩壊した遺跡の内と外を巡っているのだが、どの辺りを自分が歩いているのか判らなくなってしまう。

▲ 第二回廊付近の様子。左下に散策用の階段が見える。

▲ 第二回廊付近の建物。この遺跡は崩壊した石材の苔と樹林の中にあるため、写した画像の多くは緑色を基調としたものになってしまう。

▲ すみません、わが娘たちです。緑の中で涼しそうですが、実際は汗だくなんですよ。

▲ 膨大な量の崩壊した石材。もはや復元は無理でしょう。

▲ どこをどう歩いたか分らぬうちに再び南塔門に戻っていた。
----備考----
訪問年月日 2012年8月19日
主要参考資料 「アンコール・王たちの物語」
「アンコール 遺跡を訪ねる旅」他

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